Histiocytosis-NDのうち、LCH-NDのほとんどは小児期発症のLCHに続発したものであり、成人発症のLCHにLCH-NDが続発することは極めて稀である1)。小児LCH患者の24%が、脳MRI異常のみで神経症状を呈さない放射線学的ND(radiological ND: rND)を続発する2)。日本の小児LCHの新規発症数は年間70例ほどであることから、日本でのLCH-rND新規患者は年間15例ほどと推計される。
rNDに続いて神経症状を併発する臨床的ND(clinical ND: cND)については、日本の小児多発骨型/多臓器型LCHのコホート3,4)と、フランスのコホート5)とで、LCH診断後15年時点で累積続発率は6%近くである。よって、日本でのLCH-cND新規患者は年間4例ほどと推計される。LCH-cNDと診断された患者の年齢は、日本のコホートでは中央値7.9歳(幅4.0–14.5)、フランスのコホートでは中央値9.2歳(幅3.4–25.8)である。LCH-cNDの続発率に男女差はない(表1)。
眼窩や上顎などの顔面骨、側頭骨、頭蓋底、副鼻腔を構成する骨に病変のあるLCH症例は、中枢性尿崩症(central diabetes insipidus: CDI)の併発リスクが高い(2.6倍)ため、これらの病変は「中枢神経(central nervous system: CNS)リスク部位」と呼ばれる6)。CNSリスク部位の病変は、LCH-ND続発のリスク因子でもある5)。
CDIを併発した例を5年間以上観察すると、76%がLCH-rNDを続発する7)。LCH-cND続発率は、CDI併発例(13.2~20.0% vs. 0.7~1.9%)4,5)、再発例(特にCNS部位への)4,5)において有意に高い。フランスのコホートの解析ではLCH-cND患者のほとんど(94%)にLCH病変組織でBRAFV600E変異を認め、LCH-cNDの累積続発率はBRAFV600E変異陽性群で有意に高い(22.8% vs. 1.3%)5)。米国からの報告でも、LCH-cND患者の93%がBRAFV600E変異陽性である8)(表1)。
Erdheim-Chester病(ECD)では、脳MRI検査で20%近くに小脳や脳幹部に左右対称性の信号異常、10%余りに脳萎縮といった、ND所見を認める9,10)。日本でのECDの新規発症数は年間数例であることから、ECD関連ND(ECD-ND)新規例は年間1例ほどと推計される。ECD-NDの報告例はすべて50歳前後の成人で、男性が多い11,12)(表1)。
ECD-NDの例には、頭蓋顔面骨の病変11,12)、CDI併発11)、BRAFV600E変異が多い10,11)ことから、LCH-NDと同様に、これらはECD-NDのリスク因子と考えられる(表1)。
黄色肉芽腫症(Xanthogranuloma:JXG)関連ND(JXG-ND)の報告は1報:2例13)のみで、1例は皮疹とCDIを、もう1例は皮疹、汎血球減少、肝脾腫を伴っていた。2例とも免疫染色でBRAFV600E変異蛋白は陰性、1例は遺伝子解析でもBRAFV600E変異は陰性であった。Rosai-Dorfman病(RDD)関連ND(RDD-ND)の報告はリンパ節型に併発した1例のみ14)で、遺伝子変異については不明である。よって、JXG-NDおよびRDD-NDの頻度や発症リスク因子は不明である。
| LCH-ND | ECD-ND | ||
|---|---|---|---|
| 頻度 | rND | 24%、日本で年間15例 | 約20%、日本で年間1例 |
| cND | 6%、日本で年間4例 | ||
| 続発年齢 | 8-9歳に多い | 50歳前後 | |
| 性別 | 男女差なし | 男性が多い | |
| リスク因子 | 頭蓋顔面骨病変 中枢性尿崩症 BRAFV600E変異 |
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