Histiocytosis-NDのバイオマーカーとして期待されているのは、炎症性サイトカインであるIL-17Aやosteopontin(OPN)、神経細胞に特異的な蛋白で、軸索や樹状突起の主要な細胞骨格成分であるニューロフィラメント軽鎖(neurofilament light chain:NFL)である17-19)。
LCHは炎症性骨髄腫瘍と言われるように、病変部にはTリンパ球、マクロファージ、形質細胞、好酸球、破骨細胞様多核巨細胞、好中球、NK細胞などの様々な炎症細胞が浸潤しており1)、病変部で多量のサイトカイン・ケモカインが産生されている2)。LCHの血清中では、様々なサイトカイン・ケモカインが上昇している3)。
活動性のLCH患者において、健常対照群と比較して血清中でIL-17Aが上昇していること4)、LCH患者の末梢血では健常対照群と比較してIL-17A産生単球の割合が高く、その割合がLCHの疾患活動性と相関すること5)、多臓器型LCHにおいて、単一臓器型LCHと比較してLCH細胞のIL-17Aレセプターの蛋白発現レベルが有意に高いこと6)、からIL-17AがLCHの病態形成に強く関わっていると考えられている。
IL-17Aは、T helper 17(Th17)細胞、γδT細胞、CD8+T細胞などの様々な細胞によって産生される炎症性サイトカインであり、関節リウマチや多発性硬化症などの慢性炎症性自己免疫疾患の発症に関与している。血漿中IL-17AはLCH-ND未発症患者と比較してLCH-ND患者で有意に上昇し7)、1例報告ではあるものの、血漿および髄液中IL-17AがLCH-NDの病勢と相関することが報告されている8)。IL-17AがLCH-NDの診断および病勢評価に有用なマーカーとなる可能性がある。
OPNは、炎症性サイトカインとしてのTh1細胞やTh17細胞の産生促進作用9)、ケモカインとしての組織球および単球のリクルート作用10), 11)、破骨細胞の活性化12)、などの多機能を有する糖タンパクであり、LCH細胞で高発現している13)。
また、リスク臓器浸潤陽性の多臓器型LCHにおいて、リスク臓器浸潤陰性の多臓器型LCHや単一臓器型LCHと比較して血清中のOPNが上昇しており、その病態形成に強く関わっている14)。
下垂体後葉病変を有するLCH患者では、髄液中OPNが上昇することが示されている15)。さらに、副腎白質ジストロフィーやアルツハイマー病などのLCH-ND以外の神経変性疾患や、LCH-NDを合併していないLCHと比較して、LCH-NDにおいては髄液中のOPNが高値であり、LCH-NDの脳病変ではOPNが高発現している16)。
これらのことから、OPNはLCH-NDの診断に有用なマーカーとして期待されている。
ニューロフィラメントは神経細胞に存在する10nm径の円筒状構造をとる中間径フィラメントであり、NFL、ニューロフィラメント中鎖およびニューロフィラメント重鎖、α-interenexinで構成される。神経細胞が障害を受けると、その構成成分が脳脊髄液中へ放出され、さらに末梢血液中にも漏出する。
ニューロフィラメントの構成成分の中で、NFLは最も多く存在し可溶性が高いため、神経細胞障害のマーカーとして注目されており、様々な神経変性疾患で検討されている。慢性炎症性脱髄疾患である多発性硬化症では、血液中のNFL濃度が病勢および治療効果のバイオマーカーとして有用であることが示されている17-19)。
LCH-NDにおいても、髄液中20)および血漿中21)NFLが高値であることが報告されている。最近、BRAFV600E変異を遺伝子導入したiPS細胞由来ミクログリア様細胞と共培養したiPS細胞由来ニューロンが、神経細胞の損傷とNFLの放出を伴う神経変性の徴候を示すことが報告されている22)。
さらに、髄液中のNFLは、LCH-NDにおいてMAPK阻害剤により治療効果が得られると低下し、MAPK阻害剤中止後に上昇することが示され、LCH-NDの病勢および治療効果の評価に有用な可能性がある23)。
LCH-ND以外のHistiocytosis-NDにおいて、LCHと同様にIL-17やOPNがバイオマーカーとなるかは明らかではない。
一方、中枢神経病変を合併したErdheim-Chester病(ECD)を多く含む成人組織球性腫瘍において、血液中NFLが高値であることが示されている24)。NFLは神経細胞が障害を受けると放出されるため、LCH-ND以外のHistiocytosis-NDにおいてもバイオマーカーとして有用である可能性がある。
また、少数例ではあるがLCH-ND 1例およびECD-ND 1例において、炎症性サイトカインであるネオプテリンが髄液中で上昇していることが報告されている25)。ネオプテリンは、T細胞やNK細胞から産生されるIFN‒γにより活性化された単球、マクロファージ、樹状細胞、血管内皮細胞から産生されることから、細胞性免疫の活性化マーカーとして用いられている。
髄液ネオプテリンは、中枢神経系の炎症マーカーとして用いられており、脳炎・脳症のほか、急性ならびに慢性炎症性疾患で高値を示すため、Histiocytosis-NDのバイオマーカーとしても有用な可能性がある。
以上のように、炎症性サイトカインおよびNFLが、LCH-NDのバイオマーカーとして報告されているが、いずれも少数例での検討であるため、今後多数例での検証が必要である。また、臨床試験においてその意義を確認する必要がある。さらに、LCH-ND以外のHistiocytosis-NDでの検証も今後の課題である。