BRAFV600E変異は、LCHおよびECDの疾患の約50~60%の腫瘍組織で認められるが、組織球性腫瘍関連中枢神経変性症(Histiocytosis-ND)においては、ほぼ全例で検出される1-5)。
さらに、遺伝子変異の同定は、病変部の脳組織のみならず、末梢血や髄液などからも可能であると報告されている1,2,5)。
McClainらは、LCH‐ND症例の脳組織、末梢血単核球、髄液において、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を用いてBRAFV600E変異を解析した。その結果、脳組織ではLCH-ND患者の脳生検または剖検3例すべてでBRAFV600E陽性細胞を確認し、髄液ではLCH-ND症例20例中2例(10%)で陽性であった。
さらに、末梢血単核球では、LCH-ND発症群17例中10例(59%)で変異が検出され、非発症群と比較して有意に高い頻度であることが示された1)。BRAFV600E変異陽性末梢血単核球の存在は、LCH-ND合併と強く相関(感度0.59、特異度0.86; P < 0.0001)する。LCH-ND患者の脳内で検出される変異細胞は血液由来のクローンであることから、全身病変と中枢神経変性病変は共通の造血起源を有することが示唆された。
Shimizuらは、無症候性の放射線学的LCH-ND症例5例中3例で末梢血単核球からBRAFV600Eが検出された一方、血漿無細胞DNAの解析では変異が認められなかったと報告した。
このことは、活動性病変がなく神経症状がないLCH-ND患者においても、微量なBRAFV600E変異陽性細胞を末梢血単核球からドロップレットデジタルPCR(ddPCR)で検出できる場合があることを示し、この手法はLCH-NDの早期診断に有用であることが示唆された2)。
Histiocytosis-NDの病態機序解明に関しては、Massらは、中枢神経変性症を伴うLCH、ECD、JXGの5症例すべてにおいて、患者脳組織からBRAFV600E陽性のミクログリア様細胞を検出したと報告している。
さらに、マイクログリア前駆細胞にBRAFV600Eを発現させた遺伝子改変マウスによって、胎児期EMP系列におけるBRAFV600E変異がミクログリアのクローン増殖と活性化を引き起こし、晩発性神経変性を誘発することを実証するとともに、この晩発性神経変性がBRAF阻害により改善可能であることを示した3)。
一方、Abagnaleらは、ゲノム編集により樹立したBRAFV600E変異導入人工多能性幹細胞(iPSC)によりLCH疾患モデルを作製し、造血前駆細胞(CD34⁺細胞)から単球系への偏った分化(骨髄単球系への偏向)が生じ、CD1a⁺/CD207⁺のLCH様樹状細胞およびミクログリア様細胞へ分化することを確認した。このiPSCモデルで得られたCD14⁺前駆細胞由来のミクログリア様細胞は神経毒性を示し、骨髄由来の前駆細胞がLCH-NDにおける病原性ミクログリアへ分化する仮説が支持された4)。
さらに、Vicarioらは、剖検例の解析によって、Histiocytosis-ND患者の脳内においてBRAFV600E変異がミクログリアに限定して広範囲に存在することを明らかにした。
小児例では脳内にのみ変異クローンが認められ、末梢からは検出されないのに対し、成人例、特にECDによるHistiocytosis-NDでは、末梢血および骨髄にもBRAFV600E変異クローンが存在することを報告した5)。
以上の知見は、ディープシーケンスやddPCRによる高感度な遺伝子検査が、Histiocytosis-NDの病態解明およびクローン性造血やBRAFV600E陽性末梢血単核球の検出に有用であること、放射線診断や臨床症状と組み合わせることで、Histiocytosis-NDの早期診断とモニタリングに大きく寄与することを示している。