ランゲルハンス細胞組織球症の中枢神経病変には、下垂体などに生じる肉芽腫性(占拠性)病変以外に、小脳や大脳基底核などに生じるMRIの信号異常を呈する非占拠性病変がある1-5)。このような非占拠性病変の生検や剖検の病理像ではCD1a陽性細胞は見られず、T細胞性炎症とともに神経細胞の損失と軸索変性を認め3)、これらの非占拠性病変は神経変性性変化を示唆するものと考えられている。
最も典型的な所見は、左右対称性の小脳歯状核および大脳基底核病変である。小脳病変の頻度が最も高く、多くの症例はT2強調像やFLAIRで小脳灰白質に対称性の高信号を呈する。T1強調画像では、低信号から高信号を呈する。ときに病変は周囲の白質に及ぶ。進行した病変では、小脳や中脳の萎縮や、小脳にT1強調像でもT2強調像でも髄液に近い信号異常を呈する。
大脳基底核病変は、左右対称性のT1強調像で高信号、T2強調像での様々な信号強度を呈する。これらの病変は通常、造影増強や圧排効果を伴わないが、石灰化を認めることがある6,7)。
MRI画像での鑑別診断には、神経変性疾患を含む様々な疾患が含まれる2,5,6)。歯状核の病変は、遺伝性歯状核淡蒼球萎縮症およびKrabbe病などで、基底核(特に淡蒼球)の病変は、Hallervorden-Spatz症候群などでも認められる。脳腱黄色腫症では、小脳歯状核と大脳基底核の両方が侵される2,5,6)。
過去にガドリニウム造影剤(特に直鎖型)の投与既往がある場合、ガドリニウムの蓄積によりT1強調像で基底核や歯状核が高信号を呈することが8)、また、慢性肝不全患者では、T1強調画像で基底核の高信号が観察されることがあるので注意を要する。
信号異常が軽微で異常所見かどうか判定困難な場合には、正常児や過去画像との比較が有用なことがある。
LCH-NDでは大脳白質1-4)や橋1-3,5)の信号異常も報告されている。大脳白質病変では、びまん性もしくは斑状のしばしば左右対称性の異常などが1-4)、橋病変は、橋被蓋のT2高信号や橋錐体路の対称性T2高信号などが報告されている1-5)。
LCH-NDの画像診断およびモニタリングではMRIが主要な役割を担っている。しかし、conventionalな撮像法であるT1WIやT2WI/FLAIRによる画像所見の変化と臨床症状の変化は相関しないとする報告が多い。MRI以外の手法を用いた報告が少数ある。FDG-PETや核磁気共鳴スペクトロスコピー所見はMRI所見と比較的良好な相関があるとする報告がある。
Ribeiroらは、7例のFDG-PETを行ったLCH-ND症例を検討し、FDG-PETがMRIで異常信号が出現する前にND-LCHを早期診断するのに役立つ可能性について述べている9)。
また、Steinerらは、磁気共鳴スペクトロスコピーが本疾患の神経変性要素の早期発見と評価において、MRIに加えて貴重な情報を提供する可能性を10)、Imaiらは、拡散テンソル画像法(DTI)を用いてLCH患者33例の検討を行い、非神経変性群、radiologic LCH-ND群、clinical LCH-ND群の3群の間で中小脳脚と上小脳脚のFAに有意差が認められたことから、LCH-NDのモニタリングに役立つ可能性を報告している11)。
小脳歯状核や大脳基底核で認められる信号異常は、緩徐に進行性で消失しないことが報告されている5,10)。
Porschらは、9例のLCH-NDの経時的変化を報告している。LCH-NDと診断された時点で、小脳の信号強度異常を全例に認め、7例では信号強度の変化は小脳歯状核に限られていたが、2例では小脳歯状核、小脳白質、中小脳脚、橋背側を含む領域に重度の信号変化が存在していた。5年間の観察期間中で、全例で信号異常は消失せず、小脳や大脳基底核の信号異常の進行を認めた。しかし、信号異常の進行と臨床的悪化とは相関しなかったことを報告している5)。
Wnorowskiらも、83例のradiologic LCH-NDの検討でMRI所見は緩徐に悪化し、改善がみられなかったことを報告している12)。
LCH-NDに対してIVIG治療を行った例のMR画像の報告がある。Imashukuらは、8例のLCH-NDに3年以上のIVIG治療を行い、5症例はMRI上は大きな変化なく、2例に小脳萎縮が、1例に水頭症が出現したことを報告している13)。
Trambustiらは、IVIG治療を行ったLCH-ND11症例の経過について報告している。神経所見は7例(64%)で改善、2例(18%)で変化なし、2例(18%)で著明に悪化した。通常のMR画像は全例で大きな変化なかったが、MRSでは1例(9%)で悪化、1例(9%)で改善、残りの9例(82%)では大きな変化がなかったことを報告している14)。
これまで画像上で変化をきたした脳の実質部分は不可逆と考えられてきたが、近年、分子標的薬の有効性を示す報告が相次いでいる。MAPK経路の阻害剤の投与により、一部の症例で画像所見や臨床症状の改善が認められたとされており15-17)、今後のさらなる治療法の開発が期待されている。