LCH-NDは、LCH治療後も残存する異常な組織球が引き起こす二次的な脊髄小脳変性症であり、小脳性運動失調症、痙性麻痺、高次脳機能障害が、さまざまな重症度で生じうる。LCH-NDの多くの患者では、LCHの既往歴が明らかで、頭部MRIでもLCH-NDらしい病変を伴うため、鑑別診断に苦慮することは多くない。
一方で、LCHの既往歴が明らかでない患者でLCH-NDらしい小脳のMRI異常を認める場合は、LCH-ND以外の脊髄小脳変性症を鑑別する必要がある。また、LCHの既往歴がある患者でLCH-NDらしくない運動失調をきたした場合にも、脊髄小脳変性症として幅広く鑑別を進める必要がある。
以下、LCH-NDとの鑑別を要する脊髄小脳変性症(Spinocerebellar degeneration: SCD)の他の病型・病態について解説する。
脊髄小脳変性症は、小脳を中心とし、脳幹、脊髄あるいは大脳をおかす神経変性疾患であり、運動失調のほか、パーキンソニズム、錐体路障害、末梢神経障害、認知症など様々な症状を呈する疾患群である1)。
現在、病名としてはdegeneration、atrophyといった病態や病理を表す用語は使わず、臨床症状で表現する傾向があり、SCDのかわりに脊髄小脳失調症(Spinocerebellar ataxia: SCA)もしくは小脳失調性(Cerebellar ataxia: CA)と称されることが多い2)。
日本における脊髄小脳変性症の有病率は、人口10万人あたり18.6人と推定されている。そのうち約2/3が孤発性,1/3が家族性脊髄小脳変性症である。
孤発性脊髄小脳変性症の約2/3は多系統萎縮症であり、多系統萎縮症以外の主な疾患として、特発性小脳失調性(IDCA)および免疫介在性小脳性運動失調症3)がある。
家族性脊髄小脳変性症は90%以上が常染色体顕性遺伝性であり、OMIMでは途中に欠番などあるが、SCA1からSCA51まで分類されており、年々疾患数が増えている。日本では、Machado-Joseph病(MJD/脊髄小脳失調症[SCA]3),SCA6,歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA), SCA31の4疾患の頻度が高い。常染色体潜性遺伝性およびX連鎖性の脊髄小脳変性症は、家族性脊髄小脳変性症の10%未満であり、いずれも疾患頻度が低いが種類が多い。
主な病態として、ミトコンドリア機能障害(フリードライヒ運動失調症など)、代謝障害、核酸品質管理機構の障害(眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発型運動失調症(EAOH/AOA1)および毛細血管拡張性小脳失調性(AT)など)、蛋白品質管理機構の障害、の4つがある。日本では、EAOH/AOA1およびATの頻度が比較的高い。
LCH以外に、二次的に小脳失調症をきたす病態として、プリオン病、グルテン失調症、傍腫瘍性小脳変性性、薬剤性(抗てんかん発作薬、抗がん剤、免疫抑制薬)、甲状腺機能低下症、アルコール依存症、ビタミン欠乏症(ビタミンB1、E、B12など)などがある。
上記のような鑑別診断が存在するため、LCH-NDを疑った場合、鑑別診断を適切に除外するために、下記を行うことが推奨される。